細かい細工の施してある椅子に少女はもたれ、また一つ溜め息をつく。
 
「では、私がお話をしましょうか」
 
青年は少女の前に置いてある分厚い本を閉じた。重みのある紙が重なり合った音がすると、少女は姿勢を元に戻し、にっこりと笑んだ。
 
「面白いの?」
「さて、それはわかりませんよ。古い古い、昔話です」
「何、また歴史じゃないでしょうね」
 
窓の外には爽快に晴れ渡った空と、そして豪華に創られている宮殿の屋根。そのコントラストが美しく、加えてよく茂った木さえあればさらに美しくなると惜しまれた。
 
小鳥が、歌うように鳴く。
 
「お国の形は、ご存知で?」
 
青年は少女の顔を見て、優しく問う。
 
「知ってるわよ、馬鹿にしないで」
 
少女はその白く細い人差し指で、何もない宙に丸い花粉と四枚の花弁がある花を描く。
 
「こんな花型をしてるんでしょ? まだ他の国に行ったことはないけど、習ったわ」
「ならば他国はいくつあるか、ご存知でしょう?」
「四つ」
「ご名答」
 
腹黒く笑う青年に、少女は頬を膨らませた。
 
「何よ、話を聞かせてくれるんじゃなかったの?」
「まずはこれが前提です。仰るように、我がレッドファリンの国を東の黄垂(こうだれ)、西のイーブルー、南のグリーンダイト、北のディブラックが取り囲んでいます」
 
青年は左に流した長めの前髪を、手でそっと解く。