学校に行くまでの道のりには、両脇に見事な桜が咲いており、その花びらが雪のように私の回りを舞う――。

‥‥わけもなく。

ドラマなら、今はそんな美しい情景になるはずの時期なのだろうが、今年の桜は早咲きで、とうの昔に花びらは散ってしまった。

学校へ行くための急な上り坂。

普通に歩いていても、息が少し荒くなるようなその道の両脇に立っているのは、まるで冬のように寂しげな桜の木だけ。

ただ、冬と一点違うのはわずかに残っている花と、枝にはでている芽だ。

これから成長するんだから、と意地を張ってるような、そんなちっぽけな芽。

これから、大きくなるんだろうな。

きっと、1年前の私たちもこの芽のように希望に満ち溢れていたはず。

今は、すっかりたるんでいるけどね…。

はぁ、情けない。

私は疲れからではない、悲しみや呆れからきた、諦めのような溜息を静かにつく。

地面にべったりと張りつく、散った桜の花びらを踏み潰しながら、今日も私は坂を上る。

私が中学校に入って、1年が過ぎた。

いつもより10分以上も早めに家を出た今日。

私も中学2年生になる。


「レナーっ。」

「さおりん?」


後ろから、長い黒髪をなびかせ、右手を大いに振りながらこちらへ向かってくる少女が見えた。

平波沙緒(ヒラナミ サオ)だ。


「今日は、早かったんだね。レナの家に行ったら、もう出たって言われて‥‥。」

「始業式だし‥‥、気を引き締めようと思ってさ。」

「私のことも配慮して欲しかったです〜。」

「ごめん、ごめん。忘れてたの。」

「ええっ!?」

「ウソ。さおりんの困った顔が見たかっただけー。」


さおりんは私をぶつ真似をし、さすがに疲れました〜、と笑いながら、膝に手をついた。

同時に肩からさらさらと、髪が流れ落ちていく。

息も荒いし、結構な距離を走ったらしい。


「家からずっと走ってきたから、もう〜汗だくです。」

「始業式なのに?最悪じゃん。」

「ちょっと、ひどいですっ。誰のせいだと思ってますか〜?」


あははは、と私が笑うと、さおりんもにっこり笑い返してきた。