願わくばこの時が止まるよう





「那鶴、元気にしてた?」



水で洗ったばかりの墓石に、右手でそっと触れる。

ひんやりとして気持ちいい。

ここに来るまでずっと、セミの声が鳴り止まず、照りつける太陽が眩しかった。

日傘を差しても、暑いものは暑い。

まだ午前中だというのに、30度は超えているような気温だった。

でも、ここだけはそんな暑苦しさを感じなくて。

私達以外誰もいない、ひっそりとした墓場。

木が、墓場の周りを囲んでいて、当然セミも鳴いているのだけれど。

墓石から手を離すと、何滴か雫が落ちた。

那鶴は左利きだったよなあ。

そんなことをぼんやりと思ったり。

私達があげた線香の煙が、風に吹かれて横を通り抜けていく。

少しずつ、空へと上りながら。

柄杓と空になったおけを持ち、墓石から一歩遠ざかる。

そして、彼の隣に並ぶ。

墓石には那鶴の苗字、「岡村」と彫ってある。

昔、那鶴とよく言い争ったことを思い出し、くすっと笑う。

急に笑って変なやつと思われてないかな。

こっそりと、隣にいる彼の顔を盗み見る。

彼は私のことをまったく気にしてないかのようで、無表情に近い顔をし、ただそこに立っていた。

私にとって、それは励みとなる。

目を閉じなくても、那鶴と過ごした日々は簡単に思い出せる。


「那鶴ってさ、苗字は岡村で普通なのに、何で名前は変なのよ?」

「え?なつるって普通だろ。」

「いやいや、漢字とか思いっきり当て字だし?」

「人のことばかり言ってさあ‥‥。自分の名前はどーなんだよ。」

「レナって普通じゃん。」

「そうかあ?あと、水川って苗字も変だろ。」

「ただ単にこの学校にはいない苗字なだけでしょーが!そんなこと、言わないでよね。」

「お互い様だろ~」


よく、那鶴とは口喧嘩に近いことをしていたな。

那鶴は男の癖に、私と身長が2センチしか変わらなくて。

目線がほとんど変わらなかった。

だからよく言い争いをしたのかも。