「いやぁ、そんな大したものじゃありませんよ。それを言うならセレビアさんは頼りになるお母さんですよ」

「それ、誉めてるとしたら、失敗してるわよ」

 セレビアに軽く睨まれたジョーは、気まずそうに笑いながら己のリュックを探り始めた。

「あははは・・・・・・あ~、そうそう、コーヒーか紅茶でも飲みます? 紙パックですけど」

 セレビアの返事を待たずにリュックからそれらのセットを取り出して見せるジョー。誤魔化しともご機嫌とも取れる彼の行動に、セレビアは思わず苦笑したが、悪い気分ではなかった。

 だが、その顔が次の瞬間、一変する。
 殺気だった目で見つめる先は森の中。そこから奇妙な気配をセレビアは感じたのだ。

「どうしました?」

 セレビアの様子に気付いたジョーが尋ねると、セレビアは警戒心を森に向けたままジョーに、

「ヒーロー君、これお願いね」

 とだけ、告げて、持っていた“本”をジョーに放り投げ、自分は森の中へと駆けていった。慌てて“本”を受け取ったジョーは心配そうな面持ちを、森に消えていくセレビアの背に向けていた。


§


 生い茂る木々の中を駆けるセレビア。
目に見える光景は似たようなものばかりで方向感覚を失わせるが、彼女は気にせず森の中に感じる“奇妙な気配”だけを辿って走っている。

(私達を追ってきた誰かがいるってこと?)

 先程、いきなり本が強奪された件もセレビアは気になっていた。
たまたま入ったファミレスに“本”を狙っていた店員がいたなんていう偶然はあまりにも出来すぎ。何者かが自分達を常につけ狙っていて、こちらの隙を伺っているという方が自然だ。

 そして先程もその誰かに見られている感じがして、現に今も奇妙な気配を感じている。

 不安要素は早めに明らかにするべき。
 そう思ってセレビアは、行動している。

「近くにいるんでしょう? 出てきたら?」

 駆け足から、周囲を伺いながらの早歩きに切り替えて見えない相手に問いかけるが、風が奏でる木々のざわめきしか返ってこない。

「まっ、期待していないけどね・・・・・・」

 どこか嫌味っぽく言って、立ち止まる。晴天ではあるが、高く伸びた木々に太陽の光はいくらか遮られ、そこは暗い。


 そして静かだ。