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 フラフラとよろめきながら飛んでいたクヲンは、森を抜けて湖畔に出た。そこで誰もいないことを見計らうと、力尽きたようにそのままうつ伏せに倒れ込んだ。

 あの爆発の際、身を包んで防御として使って大火傷を負った翼がクヲンの飛行能力を著しく低下させたのだ。

 羽ばたき一つでも激痛が走り、次第に痺れて感覚がなくなり、最後は今のように半ば墜落状態で倒れてしまう。


「くっそっ!」

 苦痛に顔を歪めながらクヲンは腕に力を込めて立ち上がろうとする。少しでも動くと背中の翼に痛みが走り、四つん這いになるだけでも相当に体力を消耗してしまった。

 夕暮れで気温が落ちて肌寒くなってきているにもかかわらず、全身から汗が吹き出る。

「水……」

 霞んだ視界が目の前の湖を映し出す。立ち上がろうと膝を立てるが、あっさりと崩れてしまう。

それでもどうしても水が飲みたいクヲンは、結局這って進んでいく。そうなると背中の翼が重くて邪魔だった。あまりにも損傷が大きいため、今、その黒き翼を消すことはできないのだ。

 痛みに耐え、なんとか湖の側まで近づくと、クヲンは顔を突っ込んで一心不乱に飲み始める。

 自分の息が限界にくるまで飲むと、その顔を上げた。

 激しく乱れる息。胡乱な瞳は自分が何を見ているか認識していないだろう。意識もいつ飛んでもおかしくない状態だが、それだけは絶対に許さない意地だけは残っていた。

 そう、まだクヲンは眠ってはいけないのだ。

「……ぐっ」

 痛みを堪えながらも翼から羽根を一枚毟り取る。チリチリとなってお世辞にも秀麗なものとはいえないが、とりあえず大鎌に変化させることはできた。

 それを杖代わりにして体を支える。

 呼吸を落ち着けながら目を閉じて神経を研ぎ澄ませると、草木が不自然に揺れる音が聞こえてきた。

 間違いない。何者かが背後から近づいてきている。

 当然だ。

 自分は組織にとって裏切り者だということはすでに知れ渡っている。あのテントで罠が仕掛けられていたのが証拠だ。