「あ~あ、起きちゃダメよ」

 だが、すぐに口元を笑みに変えて付け足した。

「あ、そうか。刺激が足りなかったのね♪」

 “本”に触れようとした指が、立ち上がった男に向けられる。そして指で銃の形を作り、

「ドキュン!」

 と、小馬鹿にするように唱えると、晴天の空から、一筋の雷が男に向かって落ちた。
男は全身を激しく痙攣させ、すぐに糸の切れた操り人形のように倒れた。

「これで刺激、足りたかしら?」

 気絶した男の方は一切見ず、セレビアはクスクスと笑った。
そして再び指を“本”へと戻し、人差し指で、“本”のタイトルである“奇跡の起こし方”の文字をゆっくりとなぞっていく。

艶やかな指が文字の上を通り過ぎるたび、赤い炎のような神秘的な光が灯る。


 −本を封ずる鎖よ・・・・・・
  我が炎の鍵に焼かれよ−


 目を閉じ、セレビアは怪しい呪文を唱えると文字に灯った光が、その輝きを増す。
すると、ガタガタとセレビアの手の中で本が暴れ始めた。まるで生きていて、炎に焼かれて苦しんでいるかのようだ。

 フッと、勝ち誇ったようにセレビアの口角が釣り上がる。が、次の瞬間、その顔が痛みに歪む。

「っ!」

 パァンと、まるで爆竹が弾けたような音と共に、セレビアの手から“本”が飛ぶように手から離れて地面に落ちた。

“本”を持っていたセレビアの手は、まるで火傷を負ったよう痛々しいものとなっている。

「あたた・・・・・・ん~、やっぱ本当の“鍵”じゃないと無理かぁ」

 どこか予想していたかのように言うと、無事なほうの手で“本”を拾いあげる。
 タイトル文字に灯った光は消えていた。

「ふぅ、また旅かぁ。今度は“鍵”……見つかりにくそうね……」

 面倒くさそうにぼやきながら、その場を立ち去ろうと出入口のドアの方へ振り返ると、そこに一人の少女が息を切らしながら立っていた。