灰山は、そんなことを思いながらリボルバーに全ての込めた銃をスーツの懐へと収めた。

「ボス、一つだけ訊いてもいいですか?」

 ルミネに返事はなかったが、灰山はその無言を肯定と捉えて勝手に話を進めた。

「“神杯”を手に入れて、あなたは何の“奇跡”を叶えるつもりですか? あの子の目覚めですか? それとも……彼女の蘇生ですか?」

「……お前は彼女の蘇生が望みか?」

「いえ……」

 自分でも驚くほど、灰山は即答した。その理由を後に続ける。

「彼女が生き返ったところで、俺には振り向いてくれません。それに、彼女に託されましたから……」

「託された?」

「晴奈(セーナ)を……あなたと彼女の娘を、です」

 その口調は誓いを口にしているようだった。

「……そうか」

 取り出しかけたタバコをしまい、静かにルミネは言い放つ。

「……私も当初の計画を変更するつもりはない」

 その口調はどこか、もう引き返せない、というようなニュアンスが含まれていた。