あの時の灰山は、なりふり構っていられなかったのだ。

(アイツが知ったら、きっと………いや、絶対許さねぇだろうな)

 懐かしそうに過去を振り返り、苦笑する。あの時に比べ、自分は随分、汚れてしまった。

 組織のために法を犯し、人も殺した事がある。

 恐らくロクな最期を迎えはしないだろう。だが、それは自業自得だ。

 後悔がないといえば、嘘になるが……

「こんなところで何をしている?」

 背後より聞こえてきた声に灰山は反応したが、振り返ることはしない。

 わざわざ確認しなくても相手がルミネだということが分かったからだ。

「あなたこそ……」

「私がここへ来るのに理由がいるのか?」

「……ありませんね」

 細やかな抵抗を止め、灰山は口を閉ざす。名残惜しそうに指が少女の髪から離れる。

 そのすぐ後、ルミネが灰山の隣に立つ。

「捜索はどうした?」

「………あの魔女が言っていることが本当かどうかは…」

「捜索はどうしたかと訊いている?」

 静かだが、明らかに含みがある。

 それは、殺意が隠れた怒気だった。それを敏感に感じ取った灰山が踵を返す。

 灰山が部屋を出ていき、少し間を置いてからルミネは少女を撫でると、

「晴奈(セーナ)……」


 愛しき愛娘の名を呟いた。