遠くの方からカラスの鳴き声が微かに聞こえてくる。それに混ざって明らかに大きな羽音が耳に届き、クヲンの目が一気に覚めていく。

「なんだ?」

 聞こえてきた羽音に視線を向けると、クヲンのその目が大きく見開かれた。

「な、なんでお前がいるんだよ?」

 クヲンはカラスの大群に混ざって、キョロキョロと周囲を見回して滞空しているマリィを見て、驚愕を通り越して唖然とした。

 念のために目を擦ってもう一度よく確認する。

 背に生やした黒い翼、なによりもあのふわふわとして何も考えてないような印象を持った顔を、クヲンは忘れはしない。

 深くため息をついて、クヲンは背に対極的な白い翼を生やして、マリィの元へと飛ぶ。クヲンが近づくとカラス達は蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 マリィはカラス達が去っても、相変わらずボーッとした顔をしたままだ。その顔がクヲンの方向へと振り向いた時、クヲンは彼女の額を平手打ちした。

「ふんあ!?」

「お前、何してんの?」

 不意打ちにびっくりした様子のマリィには気にせず、呆れた口調で尋ねるクヲン。マリィは赤くなった額をさすりながらクヲンの顔を確認すると、パァと顔を輝かせた。

「ふぁ、クヲンさん。お久しぶりです」

「まだ一週間も経ってねぇ! 毎度毎度クソど下手なボケかますのは、この頭か、オイ!」

 容赦なくクヲンは、マリィのこめかみを万力のように両手で挟んでグリグリと締める。

「あううぅ〜〜〜痛いですよ〜〜〜!」

「だったら少しはマトモなボケでもかまして、せめて俺を笑わせやがれ!」

「ぼ、ボケってなんですかぁ〜〜〜!?」

 いよいよ涙目になってきたマリィがさすがに可哀想になってきたのか、クヲンは呆気なくマリィを解放する。

 頭をクラクラさせながら、マリィが振り返ると、眉根を上げてクヲンに抗議する。

「ひどいですよ〜。クヲンさん、鬼です! 悪魔です!」

「悪魔はお前だ。それより、こんなところで何やってんだよ?」

 クヲンが尋ねると、マリィは目的を思い出したかのようにポンと手を合わせた。