その瞬間───


 ───バサッ


 マリィの背中に黒いコウモリのような翼が現れ、仙太はそれに一瞬、目を丸くした。

 が、次の彼女の言葉を聞いて妙に納得してしまった自分に気付く。

「悪魔なんです」

(て、天使がいるんなら悪魔もいるよな……)

 仙太が内心でそう呟いているのも知らず、マリィは玄関から堂々と出ようとする。窓は小さいため出入りは無理なのだ。

「では、行ってきます」

「よ、よろしくお願いします」

 微笑んで出発しようとするマリィを、ひきつった笑顔で見送る仙太。

 扉が閉まってから数秒、固まったままの仙太に、再び扉が開いてマリィが顔を出す。

「えっと、学校の名前をまだお聞きしてなかったですね……」

 自信もって出て行った割りには、肝心な事を聞き忘れていたマリィはやはりどこか抜けていた。

 仙太はそんなマリィに脱力するよりは、どこか愛嬌を感じて自分の学校名を教えた。

「晴天高校です」

「せいてんこうこう……わかりました。………それから……」

 マリィは一呼吸置いて、もう一つ尋ねた。

「あなたのお名前も訊いていいですか?」

 その時のマリィの微笑みが、余りにも魅力的で仙太は照れながらも自分の名を名乗った。


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 二限目、空兎達のクラスは体育の授業だ。その真っ最中にも関わらずクヲンは体操服姿のままで屋上で寝転がっていた。いわゆるサボリである。

 今頃は、グラウンドでクラスの男子達が体育教師による嫌がらせのようなマラソンをさせられているだろうが、今のクヲンに彼らを同情する余裕はない。

 彼の目下の課題は別にある。しかし、思いもよらぬ“誤算”で暗礁に乗り上げてしまった。

 クヲンとしては体育どころではないのだ。

(どーすっかな……っても、早くせっちを見つけるしか方法が………)

 姿勢のせいか、欠伸が洩れる。それに伴い若干、眠気も襲ってきた。

 重くなる瞼に抗いながらも、だんだんと思考が鈍くなってくるのがわかり、抵抗が無意味と諦め、すぐに眠りに意識を委ねた。