そう言って沙恵美から逃げるように、空兎は電話を切った。いつ仙太の事を問い詰められるのかとドキドキして、電話の最中で何度も気が遠くなりそうになった。

 空兎はテーブルに崩れ落ちた。

「学校、休むか?」

 クヲンの問いかけに空兎は崩れた姿勢のままで首を横に振る。

「行く………無遅刻無欠席が目標だし……いってきます、って言ったし………」

「そっか……」

 クヲンはそう返事すると、傘を二本用意して、空兎が来るまで玄関で待ち続けた。




 教卓で担任の萵車が出席をとっている最中、もう名前を呼ばれ終わった空兎は、まだ雨が降らない灰色の雲を教室の窓から睨み付けている。

「甲斐浜」

 萵車が仙太の出席をとろうとするが、そこは空席。離れた席のクヲンの表情が曇る。

「天羽、甲斐浜はどうした?」

 二人が一緒に暮らしていることを知っている萵車がそっぽを向いている空兎には尋ねるが、彼女は無愛想に、視線を窓の外に向けたまま返した。

「知らないでーす」

 その一言で教室の空気が気まずくなる。詮索しても何も答えそうにない空兎の様子に萵車は嘆息すると、仙太のところに欠席印をつけてから次の生徒の名前を呼んだ。

 空兎は窓の外の曇り空を睨み続けている。


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 炊きたてのご飯にワカメと豆腐の味噌汁。鮭の塩焼きとほうれん草のおひたしと、和風の朝食の前にマリィは目を真ん丸くしている。全て仙太がこしらえたものだ。

「すごいですねぇ……」

「えぇ、まぁ。冷蔵庫にあったものを適当に使っただけですけど……」

 率直なマリィの賛辞に仙太は、照れから湿布が貼られている頬をかいた。

 一晩眠ってだいぶ傷の痛みも治まり、体力も戻ったようだ。

 またマリィの味気のない料理を食べさせられては堪らないと、一宿一飯の恩返しも兼ねて仙太が料理作りをかってでたのだ。

「まぁ、口に合うかわかんないですけど、よかったら食べて………」

「おいふぃでふ〜♪」

(早い………)

 勧める前にすでに口一杯頬張ってるマリィに仙太は呆気にとられた。

 それでも純粋に喜んで食べてくれるマリィの姿を見て、仙太は素直に嬉しかった。