店に入って一時間半程経過した頃、空兎の髪が仕上がり、顔が俯き加減の仙太の元にやって来た。

「あ、あのぅ……」

 上ずった声で自分が終わったことを告げようとする空兎。そんな空兎の声に気付き、仙太は慌てて、顔を上げる。

 そして、目を丸くした。

 後ろ髪は、肩に乗り掛かるように綺麗にで切り揃えられ、疎らだった前髪も不自然さは全く消えていた。
 仙太の口から素直な感想が洩れた。

「か、可愛い……」

「えっ!?」

 駅のホームでジュースがいるかと尋ねたときよりも大きな反応、顔も耳の先まで赤くしている空兎。

「いや、その……」

 空兎の思わぬ過剰反応に、仙太も赤面して俯いてしまう。だが、心のどこかで仙太は、これが空兎と打ち解けるキッカケのようが気がした。

 勇気を振り絞って、空兎の目を見る。

 空兎も仙太の目を見ていた。

「行こうか、く、空兎ちゃん」

「う、うん…………仙太くん………」


 お互い名前を呼ぶときは声が小さくなりがちだった───


 けど


 それでもお互い、笑顔だった。


 ………………
 …………
 ……


(そういえば、あの日に僕達、初めて会ったんだよな………なんだ、だったら、中学の時の思い出までしかなくて当然じゃないか……)

 夢と現の狭間で、仙太は空兎とクヲンの三人で昼食を食べていた時の会話を思い出した。

(帰ったら………文句の一つでも言って………)

 仙太は再び深い眠りに落ちた。

 今度は、夢は見なかった。


$


 一回り大きいベッドに寝転がり、自分の部屋と同じく白い天井を見つめても、空兎の気持ちは落ち着かなかった。

 頭痛を感じているわけではないが、気だるそうに右手の甲を額のところへ当て、その手には水色の携帯電話が握りしめられたままになっている。

 その状態のまま、特に寝るわけでもなく動かずにいる空兎は、ドアがノックされても何も反応を示さず、返事もしなかった。

 程なくして、ドアが開き、クヲンが入ってくる。