$


　娯楽らしいものはない、生活に必要最低限な物だけを揃えただけの殺風景な空間では、夕食の後片付けが済めばやることがないのだろう。マリィは、テーブルを仙太との境にするようにし、コロンと眠ってしまった。

(歯を磨いたり、お風呂とか入らないのかな……？)

　そんな素朴な疑問を持ちつつ仙太は、自分に掛かっている布団をマリィにそっと掛けてやる。

　タイプは違うが、その寝顔が空兎並に愛らしく見えて、仙太は思わずドキッとしてしまう。

　寝込みを襲うなんていう不届きを行うつもりは毛頭ないが、変な気を起こす前に、仙太は、残った敷き布団に己の体を潜らせた。重みで打ち身や傷だらけの体が多少痛むが、雨で気温も下がっている。

　ただでさえ弱っている体に風邪までひいては、マリィにも迷惑がかかる上、ますます帰りが遅くなって空兎達にも心配かけてしまう。

(早く、怪我も治さなきゃな………もう寝よう……かな)

　そんなことを考えていると体力を消耗しているのだろう、仙太はすぐに眠気を覚え、安らかな寝息をたてるのまでには、そう時間はかからなかった。


　そして、また夢を見る。

　空兎と初めて出会った、あの日の夢を………


　あの日の冒険の夢を……


　……
　…………
　………………


　ゆったりと耳に心地よく届くＢＧＭ。時折、聞こえる、ハサミのテンポと髪が切れていく音は、一種の協奏曲のようで美容院独特の落ち着いた雰囲気を生み出しているが、仙太は違っていた。

　待合室で雑誌も読まずに、緊張した面持ちで空兎が仕上がるのを、そわそわした様子で待っている。どうやら散髪屋に慣れている仙太には、美容院の雰囲気は落ち着かないようだ。

　美容師になりたてだろうか、数人の若い女性がそんな仙太に微笑ましい視線をチラチラと送ってくるので、仙太はそれがなおも気恥ずかしくなってくる。