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 ピーーーーッ!

 夢に聞こえた警笛が現実のやかんの沸騰音へとスライドしていき、仙太は目を覚ました。

(あれ? 僕、いつの間に眠って……)

 ぼんやりとする頭から記憶を辿っていく。

 マリィから出された味のない料理の数々を頑張って口に運んでいって、最後の難関である生ニンジンに差し掛かったところまで思い出した。

 それをどう食べようかと数分見つめ続け、さらにマリィの眼差しを受けて、仙太は逡巡しながらも、その生ニンジンを強引に口に入れた時点で───そこで記憶が途切れた。

(ひょっとしたら、僕はすごく危ないことをしていたんじゃないだろうか?)

 一人戦慄する仙太を他所に、マリィは、また台所で何やら調理をしている。鼻歌なんかも交えてご機嫌な様子だ。

(まさか、また罰ゲーム的な料理を作ろうとは……)

 なんとしても阻止しようと、仙太は駆け寄ろうとするが、途中でテーブルに蹴躓いて痛みに悶絶する。

「あ、気づかれましたか? ダメですよ、まだ無理して動いちゃ」

 マリィが振り返って、優しく微笑む。

「あ、いや、その……ほら、さっきご馳走になったから、もういいかなってことを………」

「え? あぁ……今作ってるのは私が食べる分ですよ」

「あ………………そ、そうなんですか」

 勘違いに気付いて、仙太は安心する。全身の力がどっと抜けた。

「あ、もしかして足りませんでした? なら、すぐにおかわりを………」

「いーえ!! 大丈夫です!! お腹一杯です!! ごちそうさまでした!!」

 仙太は、必死でおかわりを阻止した。マリィは、何故そこまで仙太が必死で叫ぶのかわからなかったが、嬉しそうな微笑みを浮かべていた。