$


 どす黒い雲。

 夜が近いのか、雨が降りそうなのかはわからないが、とにかく、クヲンの気分は穏やかではない。

 梅雨時の空は湿気が多く、クヲンは嫌いだった。

 こんな空を長時間飛びたくない。わき目も振らず、真っ直ぐに仙太が落ちたと思われる公園付近へと向かう。

「あれ、この辺だと思ったんだけどな……」

 目的地を眼下に見下ろしても、仙太はいない。クヲンは軽く舌打ちをする。

 ズボンのポケットから携帯電話を取り出す。

 空兎達には持っていないということになっているが、実はこれはセレビアから奪った携帯電話だ。

 その携帯電話のメモリーに新たに登録させた番号にかける。

 数コール鳴って出た相手に、クヲンは尋ねる。

「訊きたいことがある。せっ………甲斐浜 仙太の身柄はあんたらが預かってるのか?」

『連絡してきたと思えば、なんだいきなり?』

「質問に答えなよ………返答次第じゃアンタでも容赦しない………全力であんたらを潰す」

『そうなったら、どうなるかは……わかっているのか?』

「覚悟の上で言ってるつもりだぜ? さっさと答えろよ……」

 今のクヲンに、脅しは通じないと感じたのか、相手は一拍置いてから答えた。

『答えは、NOだ。甲斐浜 仙太は“鍵”の所有者ではない。彼を我々がどうしようとメリットはない』

 そこでクヲンは安堵すると共に、心当たりを一つ失って舌打ちする。複雑な心境だ。

 そんなクヲンの心境を無視して、電話の相手は話しかけてくる。

『それよりどうだ。そっちは?』

「………あんたのせいで、翼のところイテェよ。空兎にはゴム弾使ったくせに、俺だけ実弾って、どういう了見だよ」

『バイクをオシャカにした恨みだよ。ったく、あれ、ローンまだ残ってたんだぞ?』

「知るかよ……ったく」

 「俺が止めなきゃエライことになったくせによ」と内心で毒づいたが、それを口にして、話を広げるのが面倒なので出さなかった。