「でも、お塩は体に悪いって聞きますし!」

 仙太は、目眩を起こして、思わず膝の上のトレイをひっくり返しそうになった。なんとか、姿勢を戻して、マリィに告げる。

「いや、それは摂りすぎの場合でしょう! 生きていくためには塩は必要ですよ!」

 仙太の言葉を受けて、マリィはジーッと仙太を見つめている。

「塩は生きていくために必要………」

 そう呟くと、マリィは弾かれたように部屋の端へと行き、そこに積まれている荷物の山に頭を突っ込んで何かを探し始めた。

「あの………」

 突発的なマリィの行動が予測できず、仙太は戸惑うばかりだ。

 位置的に仙太が座っている場所と対角線上なので、頭を突っ込んで、何かを探る度にお尻が揺れるのを見て、仙太は目のやり場に困った。

 慌てて、目を逸らそうとした時、マリィが荷物の山から顔を出した。

「ありましたぁーー!」

 まるで秘宝を見つけたトレジャーハンターのような歓喜の叫びだった。

「あの、何が?」

 仙太が尋ねると、マリィは楽しそうに微笑みながら答えた。

「人間メモ帳です!」

「え? に、人間メモ帳?……なんですか? それ?」

「人間のことを勉強するためのメモ帳です」

 マリィは、誇らしく答えてから、その『人間メモ帳』なるものを床に広げると、何かを書き込み始めた。恐らく先程の塩に関することだろう。

(……変わったコだな)

 仙太は、楽しそうに書き込んでいるマリィを眺めながら、そう思った。

 そして、また膝元に目線を落とす。

(………残しちゃ、あのコに悪いよな……)

 仙太は、覚悟を決めた。