襲撃からなんとかクヲンの自宅であるマンションへと逃げ延びることができた空兎とクヲン。

 クヲンは、空兎を部屋に残すと自分の怪我の様子を見に、洗面台へと向かった。痛みの走る天使の翼を広げてみると、赤い鮮血が白い翼には目立っていた。

(ちっ………俺には実弾撃ちやがって……)

 近くのタオルを手にとって、それを水に濡らす。それから恐る恐る、傷口にタオルを押し当てていく。

「ぐっ!」

 思ったより染みたのか、ぐぐもった声で痛みにうめくクヲン。しかし、これを“罰の痛み”として受け止め続ける。

「わりぃ………空兎………わりぃ……せっち」

 脂汗を額に滲せながら、クヲンは懺悔する。それが、たとえ許されなくとも、せざるを得ない今の身の状況の理不尽さに哭きながら……


 気分が落ち着いてから、クヲンが部屋に戻ると、空兎は依然として放心状態だった。

 あひる座りで、手を太股の間に力なく放り出している。

 クヲンは、特に声を掛けることもなく、黙って腫れている空兎の手をとって、そっと触ってみる。

「いたっ……」

 小さく、空兎の全身が痛みに反応する。

「わりぃ、こりゃ酷いな。少し冷やすか」

「……いいよ、別に」

「よかねぇ!冷やすぞ!」

 空兎の手を置いて、クヲンは冷蔵庫へと向かい、上の段の冷凍庫から氷を取り出すと、それをビニール袋に詰める。それから適当なタオルで包んでから、それを空兎の元へと持っていく。

 クヲンが片手で空兎の手を持ち、もう片方の手で氷が詰まったビニールのタオルを当てていく。

「どうだ?」

「……何も感じない」

「………多分、時間置いたらジワジワ効いてくると思うぜ」

 クヲンがそう言うと、空兎は首を横に振った。

「ううん、違うの………何かね、アタシおかしいの………今、何も感じない……これって悲しいの通り越しちゃってるのかなぁ? ほら、痛みも通り越しちゃったら感じなくなるっていうし………」

「空兎?」