「わっ、なんか曇ってきたよ〜! 傘持ってなーい! 空兎ピーンチ!」

 公園通りの並木道を抜ける途中で曇り空に気付いた空兎が、頭を抱える。まるで、世界の終わりを予知した予言者のように悲壮感溢れたオーバーリアクションだ。

「折り畳みならあるけど……」

 仙太があっさり言うと、空兎は一転して、世界の終わりから救いの道を手に入れた信仰者のように、両手を胸の前で組んで目を輝かせた。

「ナーイス、せっちん!……いざとなったらよろしくねん!」

 大げさな空兎のリアクションに、仙太は苦笑いで「わかったよ」と応えた。すると、今度はクヲンも、

「あ、俺もよろしくねん! せっち!」

 と当たり前のように言い出してきた。

「……三人は無理だろ」

 一本の傘で三人がギュウギュウに詰め寄って、強引に雨を凌ぐ光景を脳裏に描いて仙太は即答した。

 二人ならまだしも、三人となると折り畳み傘では、大きさ的に強引に詰め寄っても雨は凌ぎきれない。

「ま、梅雨時だしな。降る前に今日は早めに切り上げるか!」

「そうだね!」

 クヲンの提案で、ノープランの行動に終了要素が決定したところで行動再開。

 当てがなくても、空兎が先導して二人を連れまわす。とはいっても、彼女が行きたい場所に二人が付き合わされるだけなのだが……

「毎回思うんだけど、これってただ道草を食ってるだけのような気がするんだけど……」

 空兎の気紛れ行動に振り回され続け、さすがにうんざりした様子の仙太がぼやく。

「心配性だな〜、せっち。ま、多分、それは空兎もわかってると思うぜ」

「え?」

 いつもと違う、どこかしんみりととしたクヲンの口調に、仙太は少し戸惑った。

「勘だけど、不安なんじゃね。あーやって、はしゃいでないとさ……あー見えて繊細だぜ、アイツ」

 まるで自分よりも付き合いが長いような、或いは深いようなクヲンの口振りに、仙太は戸惑う。詮索すれば、聞きたくない答えが帰ってきそうで、仙太は訊けなかった。


 仙太は、悔しくなった。