しばらく、見続けていたい気分に駆られたが───クヲンは、口角を僅かに下げた。

「OK! とりあえずノープランで適当にぶらつこうぜ。ここで夫婦喧嘩して、時間くうよりかいいだろ?」

「ふっ、夫婦じゃない!!」

 息ピッタリ、異口同音に二人はクヲンに振り返って怒鳴った。二人とも、顔が真っ赤だった。

 クヲンは、最初こそ二人の迫力に圧されたものの、次第に何だか可笑しくなり、笑いが込み上げた。顔を逸らして吹き出す。

「だから、笑うなぁぁぁぁぁぁっっ!」

 鞄(キィ付き)をラグビーのトライのように、クヲンの頭に叩きつける。それが勢い余って、クヲンごと押し倒してしまった。

 空兎とクヲンの体が重なり合う。

 それは、仙太も含め、周囲の人の注目を集めた。

「ご、ゴメン……」

 さすがにやり過ぎだと思った空兎が、顔を赤くして謝る。クヲンは、鞄に隠れた状態から柔らかな声を出す。

「いいよ、早く行こうぜ!」

「う、うん!」

 弾かれたように空兎がどくと、何でもなかったかのようにクヲンが立ち上がる。注目の目などまるで気にしていない不敵な笑みを浮かべながら、乱れた銀髪を右手で整えると、仙太に視線を送る。

「行こーぜ、せっち」

「う………ん……」

 あまりにも堂々としたクヲンの態度に、仙太はそれしか言葉が出なかった。

 歩き出した空兎とクヲンに、慌ててついていく仙太。


 その背中を───怪しいサングラスが見つめていた。


 傾きかけている陽が、厚い雲に覆われつつあった。


 何かを予感させるように──