「ほ、本気なの? う、嘘だよね!」

 顔を紅くしながら空兎が問い掛ける。クヲンは、スッと顔を上げて、微笑を浮かべながら返した。

「嘘かどうかは……この目を見て、お前が決めろよ……」

 二人の間に流れる空気が急に変わり、それを敏感に感じ取った空兎は、口元をギュッと引き結ぶ。

 頭にあったクヲンの右手が背中へと流れると、トクン───と、空兎の心臓が大きく一回、鼓動する。

 ゆっくりと、クヲンの顔が近づく。

「ちょっ!? うぇ! クヲンくん!?」

 戸惑いながらも、空兎は動けない。近づいてくるクヲンの息づかいを徐々に感じて、目をギュッと閉じる。全身に力が入っているせいか、肩が吊り上がっている。

「ぷっ………くはははは!!」

 クヲンは、空兎の顔にあと数センチと迫っておきながら、急に吹き出した。

 唾がかからないように、咄嗟に顔を逸らしたが、空兎は戸惑うばかりだ。

「何、力んでんだよ! もしかして、初めてか?」

 クヲンは、精一杯笑いを堪えているが、完全に失敗している。

 空兎は、肩を震わせ、今度は怒り形相で、顔を紅くする。

「うっさぁぁぁぁぃぃいいい!!」

 空兎の容赦ない右ストレートがクヲンの顔面を捉えるが、クヲンは、悠然とその手を左手で受け止める。

「力……抜けよ」

 また、囁くようにクヲンが言うと、空兎は逡巡しながらも小さく頷いた。

 強張っていた空兎の体の力が抜け始めると、クヲンが再び顔を近づかせてくる。

 空兎が目を閉じると、クヲンも目を閉じる。

 目を閉じていても、クヲンの息づかいや気配で距離感が感じ取れた空兎は、その距離が縮まる度に心臓の鼓動が早くなっていくのがわかった。


 二人の唇が重なった瞬間──


 爆発しそうだった心臓の鼓動は、空兎自身が驚くくらい落ち着いていった。


 軽く触れ合っただけの浅いキス───それが離れて、お互いを見つめ合った瞬間、クヲンは微笑み、空兎はそれにまた心臓をドキドキと高鳴らせた。

「教室、帰ろっか?」

「………うん!」

 目一杯はにかんで空兎は頷いた。