空兎の手の中でしわくちゃになったシーツを見て、クヲンは表情を変えずに尋ねた。
「ひょっとして、空兎の起こしたい“奇跡”ってのは、その記憶を忘れたいってこと?」
空兎は、肯定も否定もしない。ただ、じっと天井の蛍光灯を見続けている。眩い光に目を細め、答えをクヲンにゆだねるようにして黙ったままだ。
「………いいと思うぜ、俺は」
「でも……なんか、自己チューだよ……そんなの」
天井を仰いだまま、空兎が返す。
「いいじゃん。どうせ“奇跡”は一回しか起こせない。誰かのためにって、心掛けは崇高かもしれないが、結局、それはそいつの自己満かもしれない…………自分のために“奇跡”を起こすことは決して悪いことじゃないんだぜ?」
「そうかもだけどさぁ……」
空兎は、蛍光灯が眩し過ぎたのか、右腕で両目を覆って下を向く。一見、泣いているようにも見えるが、涙は出ていない。
ベッドが軋む音が静かな保健室に響く。クヲンが、空兎のすぐ目の前に寄ってきたのだ。
「空兎………」
囁くような、甘い声……空兎は、顔を上げる。涙こそ流れてはないが、瞳は潤んでいる。
二人の瞳が合わさったその時───
パチン!
空兎の額をクヲンが右手の中指で弾いた。デコピンである。
「つぅ〜〜〜〜! な、何ぃ?」
「だ〜か〜ら〜、あれこれ考えるのは、お前らしくないの!感情のまま突っ走るのが空兎なんじゃねぇか!……だからよ」
デコピンした手を今度は空兎の頭へと乗せる。
「素直になりやがれ……そんなお前が好きなんだからよ」
後半の一言に、空兎は目を極限まで見開き、丸くし、耳の先まで真っ赤になった。金魚のように口をパクパクとさせて、何か言おうにも声が出ない様子だ。
やっと絞り出た言葉が、
「すすす、すきやき?」
だった。
がっくりとクヲンが肩を落とす。
「お前な…………俺がさりげなく告ったのに、ベタなボケかますんじゃねーよ、ったく!」
空兎の頭に乗せてない方の手で頭を抱えるクヲン。
「ひょっとして、空兎の起こしたい“奇跡”ってのは、その記憶を忘れたいってこと?」
空兎は、肯定も否定もしない。ただ、じっと天井の蛍光灯を見続けている。眩い光に目を細め、答えをクヲンにゆだねるようにして黙ったままだ。
「………いいと思うぜ、俺は」
「でも……なんか、自己チューだよ……そんなの」
天井を仰いだまま、空兎が返す。
「いいじゃん。どうせ“奇跡”は一回しか起こせない。誰かのためにって、心掛けは崇高かもしれないが、結局、それはそいつの自己満かもしれない…………自分のために“奇跡”を起こすことは決して悪いことじゃないんだぜ?」
「そうかもだけどさぁ……」
空兎は、蛍光灯が眩し過ぎたのか、右腕で両目を覆って下を向く。一見、泣いているようにも見えるが、涙は出ていない。
ベッドが軋む音が静かな保健室に響く。クヲンが、空兎のすぐ目の前に寄ってきたのだ。
「空兎………」
囁くような、甘い声……空兎は、顔を上げる。涙こそ流れてはないが、瞳は潤んでいる。
二人の瞳が合わさったその時───
パチン!
空兎の額をクヲンが右手の中指で弾いた。デコピンである。
「つぅ〜〜〜〜! な、何ぃ?」
「だ〜か〜ら〜、あれこれ考えるのは、お前らしくないの!感情のまま突っ走るのが空兎なんじゃねぇか!……だからよ」
デコピンした手を今度は空兎の頭へと乗せる。
「素直になりやがれ……そんなお前が好きなんだからよ」
後半の一言に、空兎は目を極限まで見開き、丸くし、耳の先まで真っ赤になった。金魚のように口をパクパクとさせて、何か言おうにも声が出ない様子だ。
やっと絞り出た言葉が、
「すすす、すきやき?」
だった。
がっくりとクヲンが肩を落とす。
「お前な…………俺がさりげなく告ったのに、ベタなボケかますんじゃねーよ、ったく!」
空兎の頭に乗せてない方の手で頭を抱えるクヲン。



