青空、ハレの日☆奇跡の条件(加筆修正中)

 空兎の手の中でしわくちゃになったシーツを見て、クヲンは表情を変えずに尋ねた。

「ひょっとして、空兎の起こしたい“奇跡”ってのは、その記憶を忘れたいってこと?」

 空兎は、肯定も否定もしない。ただ、じっと天井の蛍光灯を見続けている。眩い光に目を細め、答えをクヲンにゆだねるようにして黙ったままだ。

「………いいと思うぜ、俺は」

「でも……なんか、自己チューだよ……そんなの」

 天井を仰いだまま、空兎が返す。

「いいじゃん。どうせ“奇跡”は一回しか起こせない。誰かのためにって、心掛けは崇高かもしれないが、結局、それはそいつの自己満かもしれない…………自分のために“奇跡”を起こすことは決して悪いことじゃないんだぜ?」

「そうかもだけどさぁ……」

 空兎は、蛍光灯が眩し過ぎたのか、右腕で両目を覆って下を向く。一見、泣いているようにも見えるが、涙は出ていない。

 ベッドが軋む音が静かな保健室に響く。クヲンが、空兎のすぐ目の前に寄ってきたのだ。

「空兎………」

 囁くような、甘い声……空兎は、顔を上げる。涙こそ流れてはないが、瞳は潤んでいる。

 二人の瞳が合わさったその時───


 パチン!


 空兎の額をクヲンが右手の中指で弾いた。デコピンである。

「つぅ〜〜〜〜! な、何ぃ?」

「だ〜か〜ら〜、あれこれ考えるのは、お前らしくないの!感情のまま突っ走るのが空兎なんじゃねぇか!……だからよ」

 デコピンした手を今度は空兎の頭へと乗せる。

「素直になりやがれ……そんなお前が好きなんだからよ」

 後半の一言に、空兎は目を極限まで見開き、丸くし、耳の先まで真っ赤になった。金魚のように口をパクパクとさせて、何か言おうにも声が出ない様子だ。

 やっと絞り出た言葉が、

「すすす、すきやき?」

 だった。
 がっくりとクヲンが肩を落とす。

「お前な…………俺がさりげなく告ったのに、ベタなボケかますんじゃねーよ、ったく!」

 空兎の頭に乗せてない方の手で頭を抱えるクヲン。