含みのある笑みで挑発するクヲン。
その両手が再びポケットの中へと入る。

「どういうこと?」

「さぁね……それよりさ、とっとと封印って奴を解いてくんないかな? そして“本”をこっち渡してくれよ」

「もとより前者はそのつもりよ。でも後者は断固拒否させてもらうけど……」

 腕を組んでセレビアも不敵に笑ってみせる。
 互い僅かも視線は逸らさない。
 この状況で次に口を開いたのはクヲンの方だった。

「知ってるぜ。アンタは封印中、ほとんど魔法が使えないんだってな?」

 その瞬間、セレビアの口角が下がると同時に眉が微かに動く。
目が少し俯き加減に逸れたのを見て、クヲンはさらに続けた。

「つまり、今のアンタは普通の人間の女ってことだ。力ずくなら若い男の俺には敵わないってことだ」

「……“若い”は余計よ」

 28のセレビアが“若い”という部分に一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに気を取り直して軽蔑の眼差しを向ける。

「意外ね。乱暴するタイプには見えないけど……」

「こう見えてもドS……なんてね。ホントはしたくないんだよ。そーゆーの後味悪いし……。けど、手段、選んでる余裕ないからよ」

 クヲンの目付きが、真剣そのものに変わる。そして、セレビアも……。

「私もよ……!」

 睨み合うこと数秒後、再びクヲンが問う。

「もう一度訊くぜ。“本”を───」

 クヲンの言葉を遮るかのように、セレビアは指を拳銃のような形にした。

「知ってた? しつこい男って嫌われるのよ」

 指先にくすぶる赤いもの。それを炎だと認識するまで、クヲンは数秒の時間が掛かってしまった。

「ちょっ、ちょっと待て! アンタ、封印中は魔法使えねぇんじゃないのかよ!」

「えぇ、“ほとんど”ね。それにこれ、私の得意な魔法だし♪」

「うは、ヤベ……」

 一気に血の気が引くクヲンに対して、セレビアは勝ち誇った表情で、

「バン!」

 炎魔法の引き金を引いた。
 ある程度溜められた炎はまるで爆弾のような作用を持ち、凄まじい爆発音を図書室中に轟かせた。