真夜中の高校──空兎や仙太が通うその学校の校舎の階段をセレビアは、一歩ずつ昇っていく。
 全身を包む黒いローブは夜の学校にこの上なく溶け込み、履いているブーツは階段を踏み締める度によく響いた。

 図書室。

 このドアの前で彼女は立ち止まった。指先が淡く光り、カチャリという音が鳴る。
 魔法で鍵を開けることなどセレビアには容易い事なのだ。
 ゆっくりとそのドアを開くと、しんと静まり返った空間の中に、目の前の窓から月の光が射し込むんでくるのがまず見えた。

「さて、と」

 すぐにその光から目を反らし、セレビアは目的の物を探す。
自らハットの魔法で封印を掛けている“本”だ。

 が、そこへ誰もいるはずのないこの空間に、突如としてセレビアとは別の声が響く。

「なーん時間待たせんだよ~。もう丑三つ時も過ぎてま~す」

 人を小馬鹿にするような声色をするその人物に、セレビアは心当たりがあった。
 眼光鋭く声がした方を向くと、その少年───白矢クヲンは、月光を背に浴びて不敵な笑みを浮かべていた。
 だらしなく窓にもたれ掛かり、ジーパンのポケットに手を突っ込んでいるが、その目に隙はない。

「空兎達から聞いたよ。アンタが魔法で“本”に封印かけたって・・・・・・。良いアイディアだな。あれは元々ここの備品。多くの生徒が出入りするこの場所じゃ、誰かが気まぐれ起こしてアレを借りかねない。うん! アンタ偉いよ!」

「褒めても何も出ないわよ。ましてや、あなたに“本”は渡さない」

「ちぇっ、読まれてたか」

 ポケットから片手を出して頭を掻くクヲン。軽く舌打ちなどもしている。

「こんな時間にここにいる時点で、目的が私と同じなのはバレバレよ」

「マジですかぁ~」

 出した手で自分の額をペチンと叩き途方に暮れる仕草。
それがセレビアには自分をおちょくっているように映った。

 だが、次の瞬間、クヲンはコロッと態度を変えて、

「けど、“鍵”は空兎が持ったままだ。どーする?」

 もう一方の手も出して左右に広げて、再び不敵な態度に戻る。

「奪いとるだけよ……“本”と“鍵”さえあればどうとでもなるわ!」

セレビアは、あくまでも強気に応えた。

「果たして、そうかな?」