「ご、ごめんなさい!」

「あ!」

 それは、クヲンの寝不足が吹き飛ぶくらいの衝撃的な言葉だった。

「お前から礼は聞いたけど、詫びは初めてだな!」

「そ、そうですか? す、すみません!」

「連発すりゃあいいってもんじゃねぇって」

 言った後、クヲンは何だか可笑しくなり、思わず吹き出してしまった。
その一方で「え?え?」と狼狽するマリィに、さらにクヲンは笑ってしまう。
 寝不足で少々ハイになっているのもあるが、それでも今のマリィがとても可笑しく、何より新鮮に見えたのだ。

「これから何処に行くんだ?」

 ひとしきり笑ったクヲンは、そう質問するも「ま、何処でもいいけどよ」と勝手に答えを奪いながら冷蔵庫に近づき、一枚食パンを取り出して一言。

「朝飯は食うだろ?」

 一拍の静寂の後、その問いにマリィは、

「はい!」

 と無条件で愛らしいと思える笑顔をクヲンに見せた。


§


 フレンチトースト、トマト、ハム、オレンジジュース。
 クヲンが作った朝食のメニューにマリィは、珍しいものを見るかのように目を丸くした。

「これ……食べられるんですか?」

「お前、マジで言ってんの?」

 どうやら黄色く塗られた食パンは初めて見るらしい。
 「いつもどうやって食ってたんだよ?」と問い掛けるクヲンに 「そのまま頂いてました」とニッコリ笑顔で答えられ、クヲンは開いた口が塞がらなかった。

 コッペパンといい比較的無味好みのマリィにフレンチトーストは口に合わないかと危惧したが、食べ始めると彼女はその味に夢中になっていた。

「おいひぃでふぅ」

 口一杯に頬張りながらあっという間に二枚分の食パンを平らげてしまったその姿は、昼間の少食ぶりを忘れさせるには充分だった。

(朝・昼・晩の食のバランス崩れてんじゃね? コイツ)

 自分のフレンチトーストをかじりつつ、クヲンは内心で呆れた。
 しかし、今にも頬が落ちそうなくらい幸せそうなマリィの顔を見ていると、クヲンも作り甲斐を感じ、少し嬉しくなった。

 だからなのかもしれない。
 世間話でもするような感覚でクヲンは告白した。

「実は俺、天使なんだ」