呆れつつも、クヲンは嬉しかった。
 けど、やはり今朝のことが少し──ほんの少し気になった。

「ほらよ、コッペパン持ってきてやったぜ」

 いつものように上半身を起こしてコッペパンを食べさせてやる。
幸せそうに食べるマリィを見て、少しクヲンに幸せになった。

 三度目ともなるとクヲンも然程そわそわすることなくアパートに帰れた。
もちろんマリィも一緒である。

「ひとつ訊いていいか?」

 部屋に入るなりクヲンは、マリィにそう切り出した。
 マリィはクヲンの方を向いて「なんでしょう?」と小首を傾げる。

「今朝、あからさまに危ない雰囲気な二人組に出会って、お前が写っていた写真、見せられたんだけどよ……」

 クヲンがそこまで言うと、マリィは途端に表情が暗くなり俯いた。

 この時、クヲンは直感した。

 なにか知ってるな、と。

 だが、 彼女の表情からあまり良い事情ではないのかもしれない。
 そう思うとクヲンの中で先までの疑念がどうでもよくなった。

「……話したくないんなら別にいーよ、さっきの質問は忘れてくれ」

 気にしてない、といった顔でクヲンは話を終わらせる。
 顔を上げたマリィが「いいのですか?」と言いそうだったが、その口をクヲンが一本立てた人差し指によって止めた。

 その時、マリィが至近距離で見たのは、銀髪の優しい微笑みだった。


§


 まだ夜も明けきらない早朝の四時。

 少女はいつものように毛布を四つ折りに畳んで、メモ用紙を一枚拝借して「おせわになりました」と書く。

 そして、いよいよ冷蔵庫へと手を伸ばしたまさにその時、

 パッ。

 部屋の電気が点いて少女───マリィは「ほへ?」と呆けては、電気を点けた張本人であるクヲンを見て「あ、おはようございます」と丁寧なお辞儀をした。

「「ほへ?」じゃねぇ、つーか早すぎだ。ったく、どうりで早く寝ると思ったらこういうことかよ……」

 早口で撒くし立てるクヲンは機嫌が悪かった。
マリィもそれを悟ってか、恐る恐る尋ねてみる。

「あの、怒ってます?」

「寝不足だからな。これ以上主食なしの朝飯なんてマジ勘弁だからな。徹夜で見張らさせてもらったぜ」