マリィの幻影が一瞬見えた気がしたが、そこに実体はない。諦めたクヲンが通学路に戻ると、背後より声がかけられた。

「おい、お前ここで何をしていた?」

 静かだが迫力のある低い声。クヲンが振り返ると、黒いスーツとネクタイを着用し、サングラスをかけた大柄の男が二人組で立っていた。

(うわ……いかにもって感じだな、オイ)

 意外過ぎる展開にクヲンは思わず緊張する。

 クヲンが黙っていると、クヲンから見て右側に立っている男が口を開いた。
声質から先の質問をした者と同一人物のようだ。

「もう一度言う。ここで何をしていた?」

「……さぁね」

 黙っていたら相手が拳銃でも出してきそうな雰囲気だったので、とりあえず何か言ってみたもの、性格からかどうにも挑発的な言葉が出てしまう。

 だが、意外にもその男は口角を上げ、クヲンに笑いを見せ、それから内ポケットから一枚の写真を取り出して見せた。

「この女を探している。知らないか?」

「知らね」

 クヲンは即答してから「そんじゃ学校あるんで」と言って足早に立ち去る。

 背後より男達が追ってくるかと思ったが、それはいらない心配だったようだ。

(アイツ、一体何者なんだよ!)

 心が荒波立つ。
 先程、あの男が見せた写真に写ってた女というのが───マリィだったからだ。


§


 冬休みまでの最後の授業だというのに、クヲンはその日一日中ボーッとしていた。

マリィの事が気になる。
 偶然出会った変な少女───

 世話がかかるくせに、どこか憎めない少女───

(……ホント、何者なんだか)

 内心で苦笑していると、それが顔に出てしまっていたようで、「こらぁ、白矢ぁ!」と教師に怒鳴られた。

 放課後になるとクヲンは、いつものようにコンビニで弁当とマリィによって食べられてしまった食パンの補充、その他不足していた材料を買い、最後にマリィが行き倒れていることをほんの少し期待してコッペパンを買った。

 そして裏通り。
 やはりというかマリィは行き倒れていた。

「もはや日課になってるな……」