「死にたくないよ……。まだ人生の何分の一だって生きちゃいないんだよ? プリンだってもっと食べたいし、もっと甘いものにも出会いたい……。ヒーローにだって会いたいよぉ」

 ジョーが初めて見るハルナの弱音。
 いや、本音と言うべきだろう。病気が発症してからあらゆることを我慢し、堪えてきたハルナに限界が訪れたのかもしれない。

 ジョーは、泣き笑い。いや、このままだと本格的に泣いてしまうであろうハルナの髪を優しく撫でながらいつもの爽やか笑顔になって告げた。

「すみません……僕にはこうしてあなたの頭を撫でてあげることしかできません」

「ちょっ! や、やめてよ、お兄ちゃん!」

 照れから顔が赤くなるハルナに、構わずジョーは撫で続ける。

「いいじゃないですか、兄妹ですよ……。だから………だからお願いです。死なないでください」

 なによりも強く、そして優しいジョー。───そう彼女が望むヒーローからの願い。

 それが届いた時、ハルナは照れ隠しを止めていた。

 ハルナの目より落ちる涙は暖かく、そして───

 純粋(ピュア)だ。

「………うん」

 ハルナはこの時、初めて泣き顔をジョーに見せた。


§


 ハルナが眠るまでジョーは傍にいて、それからそっと部屋を出てから訪れた先は院内夏祭りの会場だった。

 七夕の準備はすでに完了しており、患者や見舞い人といった人達がそれぞれの願いを込めた短冊を掛け始めていた。

 そんな中、ジョーが向かった先はお面屋だった。

「これをひとつもらえますか?」

 店員に差し出したそれは、ハルナにあげるためのテレビに出ている特撮ヒーローのお面だった。

 それをハルナの病室に持って帰り、起こさないよう、


『それでは僕は帰ります。
 体に気を付けてください。
           兄より』


 というメモ用紙と一緒に挟んでテーブルの上に置いておいてから、静かに病室を出た。


 そして、その日の夜。
 ハルナが病室を抜け出したという連絡がジョーに入った。