「そんじゃ、いよいよ開くよ~♪」

 “奇跡の起こし方”なるタイトルの本を前にして先ほどまでの不機嫌とは真逆のワクワクした顔を絶やさない空兎。

 一方でその向かい側に座っている仙太は、とりあえず、手に持っていた玉葱とトマトを卓袱台の隅の方へ置いて呆れ顔でいる。

 ちなみにキュウリは全部、空兎の腹の中だ。

「いいから早くしてくれよ・・・・・・」

「オッケィ! そんじゃ、オープン!」

 わざわざ声量を上げて、場を盛り上げるようにして本を開く空兎。
 そこに誌されている内容はこうだ。


『奇跡は起こせる。

 ただし条件がある。

 その条件とは

 奇跡を起こすことができる宝を手に入れることだ。』


「・・・・・・・・・」

 見開き2ページに渡って誌されているその内容に仙太の時間が静止した。対して空兎は嬉しそうに、

「字がおっきくて読みやすい〜♪」

 と、字を覚えたての子供のような賛美した。意気揚々と次のページを開く。


『それは、この世の何処かに存在する。

 手に入れた者は、どんな奇跡でも一度だけ起こせることができる。

 どんな奇跡を起こすかは手に入れた者次第だ。』


 今すぐ本を閉じていいですか?

 それが率直な仙太の心の叫びだ。だが、空兎は本の内容に完全に引き込まれているようで、例えそれを口にしても聞き入れてもらえないだろう。

 仕方なく空兎が次のページを捲るのを待つ。本を舐めるように読んだ空兎がページをようやく捲った。


『その宝はまだ誰も見つけていない。

 すなわち、まだこの世に奇跡は一度も起きたことがないのだ。』