だが、日が経つにつれ楽しみにしているハルナの心情とは裏腹に、足や手の感覚がなくなるなどの症状が現れ、病気は加速度的に進行していった。

 裏では泣いていたかもしれない。
 未来に絶望していたかもしれない。

 しかし、ハルナは、ジョーの前ではいつも笑顔だった。
だから、ジョーも彼女の前では常に笑顔でいることにした。


お互いの痛みを笑顔で誤魔化すかのように。


 そして、迎えた院内夏祭りの日。

 ジョーは、ハルナの車椅子を押して病院内の会場を訪れた。

「わぁ~!」

 院内というだけあって会場内の空間はさほど広くはないが、それでもハルナは素直に感激した。
 夜ではなく、朝で、しかも擬似的なのだが、射的があり各種模擬店、そしてお面屋が所狭しと並んで、割りと本格的だ。

 そこにいる患者達の誰もが日頃の煩わしさを忘れるかのように笑顔を振りまいている。

「来て良かったですか?」

「うん!」

 ハルナの笑顔を見てジョーも少しは溜飲が下がる思いだった。

 それから二人は、一通り会場中を回り、ハルナが気に入った店があれば立ち止まっては、ここぞとばかりにジョーにたかっていた。

とはいえ、院内という狭き空間ではあっという間に終わってしまう。

「終わってしまいましたね」

 ジョーがどこか寂しそうに告げると、ハルナが突然、会場の中心の方を指差す。

「ねぇ! あれ、なに?」

「ん?」

 そこでは何人かの看護助手が作業をしていた。その足元に見えるのは笹だ。

「あぁ、きっと七夕の準備でしょうね」

「七夕……」

 その時、ハルナの顔が明らかに暗くなった。
 というより、「七夕」という言葉に怒りを覚えたかのように眉を吊り上げた。

「………だ」

「え?」

 ハルナが呟いた言葉が聞き取れず、思わず聞き返してしまうジョー。
 だが、彼女は、もう笑っていた。

「なんでもないっ!」

 と、誤魔化してから、

「さぁーて、もう一週行くよっ! お兄ちゃん!」

 と、元気にいっぱい叫んで、ジョーを促がそうとした。


 その時だ。