「そうだな~」と言って天井を仰ぐハルナに、「無理に答える必要はないですよ」と、ジョーが言おうとした矢先、

 ピーンポーン。

『緋上ハルナさん、緋上ハルナさん。CT検査のお時間です』

 物腰柔らかそうな女性看護師の声がナースコールを通じて聞こえてきた。
 途端に、ハルナの頭がガクリと垂れる。

「う~、せっかくのプリンタイムが〜」

「ラップして冷蔵庫にでも入れておきますよ」

「お願いねっ!」

 パッと晴れた顔になるや否や、病室を元気に飛び出すハルナ。恐らくジョーの「病院内は走ると危ないですよ!」なんて注意は届いてないだろう。

 そんな妹に呆れつつも、先程自分が言った通り、ハルナの食べかけのプリンにラップをかけて冷蔵庫へ入れておく。

 その際、ふとジョー目に付いたものがあった。

「これは……」

 くしゃくしゃになってゴミ箱に投げ捨てられていた紙。
妙に気になり拾い上げて広げてみると、それは『院内夏祭り』の催しがあるというお知らせの用紙だった。

「日付は二週間後・・・」

 何故こんなものをハルナは捨てたのだろうと疑問に思うジョー。
こういったイベントには嬉々として参加しそうなものなのにと思いつつ、ひょっとしたら患者の参加条件を満たしていないかと思ったが、そうでもない。

 では何故?

そう考えたときジョーは悟ってしまった。

 もうハルナ自身が自覚しているのだ。
 未来(さき)の見えない自分に。

 そう思った時、ジョーは心臓が握り潰されそうな気分に陥った。

(……僕は………僕は!)

 いくらヒーローでも、今、接近している病魔(あく)は倒せない。
 ジョーは己の無力さを痛感した。

 そう考えた時、今の自分に何ができるだろう?
 答えは、すぐに出た。

「ハルナがどんな反応するかな?」

 くしゃくしゃになった紙のしわを伸ばしつつジョーは微笑んだ。


 やがて検査から帰ってきたハルナにジョーは提案してみた。
 「院内夏祭りに行ってみませんか?」と、最初、ハルナは戸惑っていたがやはり行きたかったのだろう。すぐに賛成した。