「えっと、空兎は、今はこんなだけど、中学の頃はもっとおとなしくて……」

「うぐっ!」

 仙太の言葉に動揺した空兎が奇妙な呻き声と共にパスタを喉に詰まらせる。
 それをお茶で流し込み、一息つくと、

「せせ、せっちちんん!!」

 赤面しつつ、仙太の襟を掴んでそれがヨレヨレにならんばかりに激しく揺らした。
 どうやら触れられたくない過去だったようだ。

「わ、悪かった! き、君がそこまで気にしていたとは知らなかったからさ!」

 そこでクヲンが意地悪く「なんだよ?」と訊いてきたのを空兎は聞き逃さなかった。

「わーー! わーー!」

 今度は自分が聞きたくないと言わんばかりに耳を塞いで叫ぶ。その姿に仙太は呆れるやら苦笑いするやらだが、クヲンは心底楽しんでいるようだ。

「わかったわかった、もう訊かねぇよ」

「・・・・・・むぅ」

 眉根を寄せてむくれている空兎のあの目は半信半疑のものだ。
 しかし、そんな彼女の視線を知りつつもクヲンは、図太く仙太特性の味を楽しんでいた。

「ねぇ……ひとつ訊いてもいいかな?」

「ん?」

 馴れ初めの話をちゃんと終わらせたいのもあったが、それ以上に仙太はクヲンに訊きたい事があった。
 食べ掛けのパスタを一気に吸って咀嚼してからクヲンは何事かと応える。

「あれからずっと何処に行っていたの?」

「言ったろ? とっておきの情報を掴んできたって。もちろん“神杯”関係の調査だよ」

「んっ!」

 今にも口に咥えたフォークが飛び出しそうな勢いで空兎が身を乗り出してきた。

「さっきも言ってた『とっておきの情報』ってやつ?」

「あぁ、なんと! “神杯”をゲットしても、起こせる“奇跡”は、たった一度だけなんだぜ!」

 大仰に言い放つクヲンに対し、空兎の反応は冷たかった。
 それもそのはず。空兎や仙太は、すでにそのことを“本”の記述で知っていることであり、わざわざクヲンの口から聞く必要はないのだ。

 そのことを仙太から聞くとクヲンは、

「なぁんだぁ。やっぱ“本”を持っている奴は違うぜ!」

 と、残念そうな様子をおくびにもださず納得した顔をした。
 それから、ふと、何かを思い付いて笑う。