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 ジョーとの話を終え、セレビアは今、ビルの屋上に立っていた。
 ジョーとの会話が、今頃になってリフレインされる。


 ―――実は……“奇跡”を私に譲って欲しいの

 ―――それは、またどうしてです?


 内心で舌打ちしても止まらない。止めどなく繰り返される。


 ―――私にはどうしても叶えたい願いがあるの!

 ―――空兎ちゃんには、許可貰ったんですか?

 ―――まだに決まってるじゃない! でも“鍵”はあの娘になついて離れない……アレが“鍵”だってことは私の魔法が証明しているからね。とにかく、一番慕われているあんたが説得すれば万事解決じゃない!

 ―――そんなことはありませんよ……


 謙遜はしていたが、ジョーが一番慕われているとセレビアは確信している。
 だが、その後もジョーは話をはぐらかせているというか、遠回しに反対しているように感じられた。


 ―――もう、いいわよ!


 帰りのアイスコーヒー代くらい払っておくべきだったと激しく後悔しつつも、ジョーの苛立ちに腹が立つ。

 ………いや、実際に腹が立っているのは己だ。


 己の過去………。


(マレスト……)

 セレビアは、目を閉じて一滴の涙を溢した。