「あ~~それより“本”はどうしたんだ?」

 元々、あの“本”が空兎逹の学校の貸出物である以上、いつまでも手元に置いておけるはずもない。クヲンとしては、そこが気になるところではあった。

「それなら、セレビアさんがハットを代わり置いておくことで、恒久的に貸出・・・つまり、置いておくだけで他の誰もが借りられないようにできるみたいだよ」

 セレビアから聞いたことを説明しながら、仙太は、魔法は便利なものではあるが、反面、弱点もそれなりにあることを知った。

 それは、その魔法を掛けられている間、セレビアは、ほとんど魔法が使えないということだ。

 にも関らず自ら率先して、ハットを貸してくれたということは彼女自身、“宝”に対する執着が感じられる。

「なるほどねぇ」

 話を聞き終えたクヲンが、いつの間にか胡座かいていて、空兎もあひる座りをしており、気付けば唯一仙太だけが立っていた。

(・・・・・・なんで僕だけ?)

 そう思うのもだんだん面倒になってきた仙太は、自然な流れで胡座をかくことにした。

「じゃあ、あの魔法使いさんがいないと“本”が貸し出せないってことね・・・。じゃあ、今、お前等の学校、行っても意味ないわけだ」

「意味ないというか、まず学校自体が閉まってると思うけど・・・・・・」

 「あっちゃー」と、クヲンが仙太のツッコミに、やや大袈裟なリアクションで返す。

「えぇ~、クヲンくんでもダメなのぉ~?」

「わりぃな」

 項垂れる空兎に、クヲンが片手で「ごめんなさい」の形を作り、ウィンクして詫びる。でも、そのすぐ後に、

「その代わりといっては何だけどよ。とっておきの情報を掴んで来てやったぜ」

 そう言ってニヤリとする。空兎は「お!」目を見開いて驚く。クヲンは、その反応を、まるでイタズラ天使のような表情となって引き寄せると、

「ま、その前に飯だけどな」

 軽く言い飛ばして、空兎をズルッと前のめりでコケさせ、仙太に深い溜息を漏らさせる。
丁度、時計は昼食時を示しているのだ。

「そーゆーわけで、せっち、何か食べるものよろしく!」

 その声は、明らかに仙太へと向けられていたが、応対に一瞬鈍る。