“奇跡の起こし方”

 なんともインチキ臭いタイトルだが、本自体は古ぼけており、どことなく趣がある。雰囲気だけなら確かに空兎の言う通り“特別なモノ”だ。

 それが卓袱台の真ん中に置かれているそれを改めて見た仙太の感想である。

 この本を見つけた空兎は迷うことなく、借りることにして、居候先の家、つまり仙太の家に持ち帰って居間の卓袱台の真ん中に堂々と置いている。

 週間少年漫画雑誌くらいの厚さと大きさなのだが、異彩を放っており、ただならぬ空気を醸し出している。

「呪われてないよな?」

 仙太が思わずそう疑いたくなる程の迫力が、確かにこの本には感じられる。

 すぐにも部屋の隅にはけておきたい所だが、「勝手に触ったり、読んだりしたら、顔面蹴るから♪」と、空兎から脅迫されているので、迂闊には動かせない。

 ちなみに当の本人は今、入浴中だ。

(とりあえず・・・・・・今日の夕飯どうするかな)

 仙太は、その不気味な“本”の存在をとりあえず忘れようと台所へと向かう。
 甲斐浜家の夕食担当は仙太なのだ。

 母親と二人暮しで、しかも医者という多忙の身なので、空兎が来る前までは夕食時はいつも一人だった。

 小学生の時は毎日母親が早朝に朝食と一緒に夕食の用意をしておいてくれていたのだが、仙太が料理を覚えてからは夕食だけは、母親の負担を軽減させようと、進んで仙太が引き受けることとなった。

 そしてそれは、空兎が居候を始めてからも継続中だ。
 
 空兎自身は居候の身であることを気にしてのか、自分も作ると言いだして、一度、任せてみれば、とても常人には耐えることのできない味の料理を出された経験がある。

 以来、仙太の権限において彼女の夕食担当は半永久的に強制的に外され、代わりに、毎日のゴミ係りという役割を担当させることとした。