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「いらっしゃいませ」

 ここは以前、空兎がめちゃめちゃにしてくれたファミリーレストラン。
 フリーターである緋上ジョーは、ここの責任者との約束通り、しばらくタダ働きをしていたのだが、元々、人が良すぎるジョーは、同僚や、迷惑をかけた責任者からもすぐに慕われるようになり、なによりその仕事振りが評価され、正式に雇われてしまったのである。

「二名様ですね。禁煙席と喫煙席のどちらに――――禁煙席ですね。どうぞ、こちらへ」

 若いカップルをナチュラルスマイルで案内するジョーの仕事振りを見ながら、アイスコーヒーの氷をストローで弄びながら、セレビア=J=ダルクは「相変わらず丁寧ねぇ」と、零した。

とんがりハットはないが、相変わらずのOL風のスーツを着ているため、以前のような異質感はなく、一客として溶け込んでいる。

 何故彼女がこんな所にいるのかというと、二時間前、「話があるから」と告げるなりバイト先から連れ出そうとしたセレビアだが、「バイト中ですから、終わってからでいいですか?」の一言で、やんわりと一蹴され、ついでに禁煙席に案内されると頼みもしないのにアイスコーヒーを出された。

(確かに私は煙草を吸わないし、アイスコーヒーは好きだけど……)

 ここまで趣味、嗜好を熟知されていると逆に気持ち悪いが、深く考えないことにしないで、しっかりと二杯目のおかわりに手をつけたところだ。

 ふと、近くの窓を覗いてみる。風がざわめき、木々が揺れるのが見て感じられる。

「もう五月も終わりねぇ」

 そんな感傷に浸っていると、不意に肩にポンと手が置かれた。

「さぁ、行きましょうか?セレビアさん。って、あれ?」

 どうにか休憩時間にこぎ着けたジョーは、セレビアの待つ席へと向かったが、肝心のセレビアは、心臓をはね上がらせていた。

(こんなに心臓に悪いキャラだっけ?)

 脂汗滲ませながらも、なんとか平静を装い「いいわ」と短く答えてジョーを向かい側席へ座るように指示した。

「それで、話って何です?」

 ジョーが切り出すと、セレビアはアイスコーヒーを一口飲んでから「実はね・・・」と、話題を切り出す。