「……靴は脱いでくれないかな？」

「あ、わりぃ」

　ようやく自分が粗相をしていることに気づくと、隣から何やら地響きの如き足音が聞こえてきた。
　バンッ！ という豪快に開かれたドアの音と共に、現れたのはやはり肩にキィを乗せて現れた空兎。

　感動の再会、というには、心なしか彼女の表情は不機嫌極まりないものだ。

「お、空兎！ 久し――」

　しかし、クヲンはそんな空兎の心情に気づかず気さくに声を掛けようとしたところで悲劇は起きた。

　ぼふっ！ がふっ！

　何週間も連絡をよこさなかった空兎の怒りだろう。腹に一発、顔面に一発に見事なパンチが決まる。

　クヲンは、靴を脱ぐ暇もなく、完全にＫＯされてしまった。

「乙女の怒りって奴を思い知りなさい、クヲンくん！」

「りょ、了解っす」

　跳ね起き、しゃがみこみながらクヲンは答えた。
　空兎はやっとそこで笑顔となり、仙太はそんな空兎を見て、複雑な気持ちになった。