ゴールデン・ウィークも過ぎれば本格的な夏がやって来る。
 セミも、そして、日曜の朝から「今年は例年よりも暑くなりそうだなぁ~。さすが地球温暖化!」と、少し早い衣替えを終えた空兎もうるさくなる季節だ。

 春物の服を防虫剤と一緒に収納ケースに入れ終えた空兎は、ひと仕事を終えたという感じにその場で思い切り伸びをした。

 その姿が少し眩しく、魅力的に見えた。

 そう、今の仙太にしてみれば。

(……なんだろう、この気持ち)

 何か釈然としないが、原因だけはハッキリとしている。

 ゴールデン・ウィークで出会った少年、いや、天使だった白矢クヲン。

 彼の存在が、心の何処かで引っ掛かっているのだ。

 そのクヲンはというと、あのテーマパークの一件後、「ちょっくら、寄るところあるんで!」と言って、何処かへと飛んでいってしまった。

 その時、空兎が寂しそうに「あ……」って言ったのを、仙太は忘れられないでいた。
 クヲンが見えなくなってから間もなくして、「行っちゃったぁ」と、がっくりと肩を落とす空兎の姿は、今にも目に焼き付いて離れない。

 幸いなことがあるとすれば、“鍵”らしき、あの蒼いフサフサの生き物が妙になつき、空兎に笑顔を取り戻してくれたということだろうか。

 ともかく、仙太にとって、ゴールデン・ウィークの思い出は必ずしも良いものとはいえないものとなってしまった。

 “鍵”は、「キィ」と名付けられ、現在、甲斐浜家に、紗恵美に内緒で居候中である。
ちなみに名付け親は空兎で、「鍵」=「key(キィ)」という単純な語源だ。

 ともあれ、もう五月も終盤になろうというのに、あれからクヲンからの連絡はない。

「・・・・・・ふぅ」

 深い溜息をつき、収納ケースの前で呆然としている仙太の目の前に、ふと空兎と、その右肩に乗っているキィが、ぬっと現れてきた。

「うぉい!」

「おぉ!?」

 突然のダブル登場に、仙太の目がこれ以上なく丸くなる。

「「おぉ!?」じゃなくて、アタシの部屋でポケーっとしないでよ! 夏バテにはまだ早いっての!」