「なに?」

 一瞬にして首を、下から上へ引き上げられたセレビア逹三人は遥か上空に見上げさせられた。
つむじ風に巻き込まれ、それに耐えつつも仙太は、その一瞬で空兎がクヲンに抱き抱えられているのを見逃さなかった。

 やがて、二人は、東京タワーの更に倍の約六百メートルの高さまでやって来た。

「さぁてと、どーすっかなぁ?」

 何も考えていないところがいかにもクヲンらしいが、どこか不敵に笑みを作っている。
そのはずだ空兎がずっと肌身離さず“奇跡の起こし方”の本を手離さそうとはしなかったから。

 クヲンの目論見通りというべきか、空兎は笑う。

「あるよっ! セレビアさんの魔法効果も丁度残ってるし!」

 そう言って取り出したのは、まだ淡い輝きを放つ光だった。それが北東を差しているのだった。しかも、キラッと光るものが何かそこに見える。

「そこだ!」

 二人は異口同音に叫んで飛ぶ。当然、“鍵”と思われる存在は逃げるが、どう見てもクヲンの勝ちだ。

 そして、“鍵”と思われる存在は、空兎を手の中にすっぽりと収まった。

「やったぁ!」

 クヲンが急ブレーキを掛けるよりも前に、空兎は喜びの余りに叫んだ。
 そして、クヲンがブレーキ後、空兎が手の中を覗こうと恐る恐る広げてみると、何か蠢くものが見えた。

「ウキュ!」

 それはフサフサの蒼い毛に覆われた丸い生き物だった。
円らな瞳に、丸い耳らしきものや糸のような細長い尻尾のようなものがあり、尻尾の先には黄色い球体があった。

 少なくとも、この世の動物のカテゴリーには当てはまらないこの不可思議生物に、空兎は目をぱちくりさせた。

「これが………“鍵”?」

 いまひとつ信じられなかったが、僅か五センチに満たないそれは、空兎を二、三度見据えると気に入ったのか頬を刷り寄せてきた。

「あはは!」

「なつかれたようだな!」

 空兎は、その不思議な生物をしっかりと手に抱き、クヲンはその触れ合いの邪魔ならぬように、ゆっくりと降下し始めた。

 そして、丁度そこへセレビア逹と合流する。

「お、来た来た」

 ゆっくりと降下するクヲンを、しかめっ面のセレビアが出迎える。