誰かさんと同じような事を言ってしまった銀髪の少年に、仙太は目眩を覚えた。

 あまり良いではない第一印象だが、察するに彼はこの森で遭難中、地面に落ちていたチョコパイに飛び付き、見事罠に引っ掛かってしまった少し哀れな人らしい。

「いやぁ~しかし、まさか落とし穴たぁ驚いたぜ。チョコパイを餌に使う奴なんざ前代未聞じゃないか?」

(その引っ掛かる人も前代未聞なんじゃないかなぁ)

 一応、初対面の相手なので失礼にならないよう、口には出さずに心の中だけで突っ込んでおく仙太。

「でも、あれくらいの穴ならすぐに出れるんじゃないのかい?」

 落とし穴とはいえ、深さは二メートル程。
高校一年生平均身長並の仙太とそう変わらない彼ならすぐに出られるだろうと、仙太は思った。

「ん? あぁ、まぁ、そうなんだけどよ。丁度、夜だったし、あの中、意外と暖かくてな。どうせ引っ掛かったんなら寝床に使わせて貰おうって思って、出なかったわけ」

 こういう逞しい発想もまた、どこか空兎に似ている。

 そのうえ、


 ぐぅ~~~。


 という、お腹が鳴る音もどことなく似ていた。

「わりぃ、朝飯あったら食わせてくれない?」

 気恥ずかしそうに頭をかきながら頼む彼を、仙太は何となく放っておくわけには行かなかった。
 元より自分達が仕掛けた罠に引っ掛けた哀れな被害者だ。だから、彼を連れて、皆がいる湖畔へと戻ることに躊躇いはなかった。

 その道中、彼はこう名乗った。

「俺の名前は白矢(はくや) クヲン。よろしくな!」