そんな、泣きそうな顔しないでよ。



 大志くんの姿を見て、心臓がちょっとキュッと縮まる。



 ――と、同時に赤いシュシュがチラついた。

 すぐにまた心臓が、キュッとする。



「何だ大志、実句ちゃんに何かしたのか?」

 マスターが怪訝な顔をして大志くんを見る。


「いえ、全然。何でもないことなんです」


 私が即効で否定すると、大志くんは抱えている紙ナプキンに視線を落とした。


「ならいいけど……。実句ちゃんに迷惑掛けるなよ~?」


 マスターにポンッと肩を叩かれると、大志くんはペコリと頭を下げて違う席に行ってしまった。



「何だ大志のやつ……」


 マスターはちょっと口をへの字に曲げて大志くんを見遣ると、私の注文したアールグレイの準備に取り掛かり始めた。