「4年前にあなたの両親、桜井多一さんと桜井陽子さん、そしてあなた、桜井翼が乗っていたあの車と衝突したのは…、風見亮君のお父さん、風見哲(カザミサトシ)さんの運転する車だったのよ。
風見さんは急ブレーキをかけたけど多一さんはハンドルをきって壁に衝突、そして陽子姉さんと共に還らぬ人となったの。
…風見さんの運転する車に乗っていたのが、息子の風見亮君よ。
…だから、翼が仲良くしているのは…」
「お父さんとお母さんを奪った人の息子…」
「えぇ、そうなるわ」
何それ。
知らないよ?どういうこと?
亮君は…、あたしの敵の息子。
事故の相手が亮君のお父さん…。
亮君のお父さんは2人を…殺した。
一気にどうしようもない感情が溢れる。
何これ。
今まで体験したことのないような辛く苦しいもの。
頬に一筋の涙が伝った。
心はもう、救いようのないくらいにボロボロだった。
♪~♪~♪
空気を読まない携帯が着信音を響かせる。
“風見亮”
そう表示された文字にどこか憎しみを持ったように感じる。
そっと携帯をとり通話ボタンを押し、耳にあてる。
『翼?あのさ、今からあの草原これる?』
何も知らない亮君の陽気な声。
携帯を握る力が増す。
「うん…、今から行くよ」
秋の夕方は肌寒い。
上に水色のカーディガンを羽織って外に出た。
目の前にはもう空を座って空を見上げる君がいた。

