声に涙が混じっている。

そしてあたし自身もよくわからない。
あたしは“笑ってない”ということ。

笑っているという自覚は確かにない。

それに笑うという感情だけが上手く出てこない。

辛かったり苦しかったし悲しかったりするのはすぐに涙となってあふれでてくるのに、笑うことだけは…、時の流れにのらずに記憶の箱に閉じこもっていた…。


香子さんのその言葉でとっさに口元をふさいだ。

声がもれてしまうから。


香子さんの語りかけは淡々と進む。


「私は、翼ちゃんが最後に笑ったのを見たのはまだ小学1年生の頃だった。多一さんと陽子姉さんがいなくなってから翼ちゃんは感情を表に出さなくなったの…。
最近はよく話すようになったけど、あの事を話せばまた振り出しに戻るわ。あの子は、陽子姉さんに似て、人一倍傷つきやすい。…いつか話すときが来る。そうしたら、陽子姉さん、多一さんと一緒に守ってあげて……」


パタパタと足音が近づく、香子さんが来る前に階段を逃げるようにかけ上がって布団に潜り込む。


意味がわからない。

本当に亮君の何を知ってるの?

いつになればあたしに話してくれるの?

忘れようと思ったのに無駄じゃない。


「お父さん、お母さん、2人の知ってる風見亮はどんな人…?」


答えなんて返ってくるわけないのに写真たてを持つ手に無意識に力が入る。

写真の中で笑う2人はあたしだけを見てる。