……。

見慣れた家が目の前にある。
一緒にご飯を食べて、笑い合った家…。


「美和と二人で話してもいいかな?」


車庫入れを済ませ、冬馬兄ちゃんが振り返る。
その視線は良明くんだけを捉えていて、私に注がれることは無い。


「俺は、美和ちゃんと一緒に居るって約束したんです。
彼女一人をあなたに預けるなんてことは出来ません」


そんな言葉に冬馬兄ちゃんは少し考えて、それから麻実ちゃんを見る。
そして再び良明くんを見、言葉を出す。


「大切な話だから二人で話したいんだ。
キミには麻実が話す。それじゃあダメか?」


…麻実、って呼び捨てしてる。前は「ちゃん付け」だったのに。
私だけじゃなく、良明くんもそれに気付いた。だから良明くんは小さく舌打ちをする。


「大切な話ならもっと早く言うべきだったと思います。
幼なじみで、ずっと美和ちゃんを見てきたあなたは…彼女の気持ちに気付いてないわけないですよね?
お前も、ずっと美和ちゃんを見てきたのならなんでこんな…こんなことするなんて意味わかんねーよ」


二人を睨むように見る良明くん。その手は震えているように感じた。


(…もう、ヤダよ…)


良明くんの手に出来た一瞬の隙。その時、私は車から降り走り出す。

もうこんなのイヤ。
何も聞きたくない。
良明くんのツラそうな顔見たくない。私の為に、あんな顔させたくない。


「美和っ!」


追いかける冬馬兄ちゃんから逃れようと必死に走る。
だけどすぐに追いつかれ、腕を掴まれた。


「頼むから聞いてくれ」

「イヤ…離して!!」


何も聞きたくない…もう誰とも話したくない…。
必死にもがく私を、冬馬兄ちゃんは優しく抱き締める。


「逃げるな。頼むから、傍に居てくれ」

「っ…」


目が合った次の瞬間、
私は、冬馬兄ちゃんの頬を叩いていた。