生ぬるい風が頬を撫でる。
信号が青に変わり、止まっていた人の波が動き出す。
だけど私たちはその場から動かず、通りの向こう側に居る冬馬兄ちゃんたちも動かなかった。

携帯を耳に当てた良明くんと同じように麻実ちゃんも携帯を耳に当て、私を見る。


「…どういうことなのか、話してもらえたら嬉しいんだけど」


良明くんの言葉に麻実ちゃんは小さく頷く。
それから横に居る冬馬兄ちゃんを見て…視線を合わせた冬馬兄ちゃんは諦めたような顔で笑い、ゆっくりと私たちに近づく。


「俺の家で話そう」


ただそれだけを言って歩き出し、麻実ちゃんは下を向いたままそれに続く。
だから私たちも後を追う。


本当は今すぐここから逃げ出したい。でも、良明くんがそれを許してくれない。
離れていた手。それを再び繋ぎ、良明くんに引っ張られるような形で歩いている。

そしてたどり着いた立体駐車場。
そこで冬馬兄ちゃんの車に乗り、家へと向かう。


「………」


誰も何も言わない。目を合わせようとしない。
いつもは助手席に乗る私だけど、今日は良明くんと一緒に後部座席に座る。
そして助手席には、麻実ちゃん。
「私の場所」だと勝手に思い込んでいたその席に麻実ちゃんが居る。それを後ろから見ていると、少しだけ胸が痛む。


車はいつもと同じように走り出す。けれど私たちに言葉は無く、笑顔も無い。

楽しかった日常…それが変わってしまう。
それを知りながらも車は止まることなく、ただ真っ直ぐに冬馬兄ちゃんの家を目指している。

私たちの全てが変わってしまう。