――……。


「……え」


思わず目を閉じてしまった私。それを開いた時、全てを知る。


「動くなよ」


【試供品】と書かれた袋を持つ冬馬兄ちゃん。
袋の中身で、さっきまで涙でグチャグチャだった私の顔を拭いていく。


(メ、メイク落とし…?)


…確かにヒドい顔になってたと思うけど、さ。
この距離でそんなことされるなんて思ってなかったから…私、馬鹿な想像しちゃったよ…。

心臓がドキドキと音を立てる。
それを知ってか知らずか、冬馬兄ちゃんがニヤリと笑った。


「キスすると思った?」

「っ…そんなわけないでしょ!」


きっと私、顔真っ赤。
ヤだな…「キスされると思った」私の心、絶対バレてる。

冬馬兄ちゃんは微笑み、それから言う。


「俺は、美和が望むなら何をしてもいい」

「ッ…」


ドキッとするその言葉。私が望むなら…何をしてもいい…。

その言葉は、ホンモノなのかな?
それとも…ただの社交辞令…?


「…からかわないでよ、馬鹿」


…ホンモノなわけないよね、私はただの幼なじみだもん。
何かを望んだって、冬馬兄ちゃんはいつものように私の頭を撫でるだけ…きっとそうだと思う。


「からかってるつもりはないけどね。
でも…美和がそう思うなら、そうかもしれない」


どこか寂しそうに笑う顔。
言葉の意味が、よくわからない。

冬馬兄ちゃんは、私の望んだことをしてくれるの…?
からかって言ったわけじゃなくて、ホンモノの気持ち…?


「はい、終わり」

「あっ…」


助手席の足元にあるゴミ箱。
メイク落としをゴミ箱に入れた後、私の髪をクシャクシャっとした。


「化粧しない方がいいよ。肌が痛む」


……。
さっきの言葉はなんだったんだろう?
そう思ってしまうくらいに冬馬兄ちゃんは私との距離を取る。


「少し外出るか」


…もうすぐ日が沈む。
ドアを開け、生ぬるい風の吹く外へと出た。