【美和side】


――……。


冬馬兄ちゃんが行ってしまう日、良明くんと麻実ちゃんは私たちを二人にしてくれた。

…だけど会話なんて無く、冬馬兄ちゃんは黙々と荷物を積んでいく。
私もまた、黙々と手伝いをするだけだった。


「よし、終了っと」


その言葉でようやく私たちは会話を始める。


「ちょっと話があるんだけど、いい?」

「ん?なーに?」


いつもと同じ態度。いつもと同じ私たち。

冬馬兄ちゃんの家に上がって、ソファーに座らされる。


「ウチの親父、どこで寝泊まりしてるのか知らないけど、もうほとんど家に帰らないんだ。
で、美和にお願い。たまにでいいから、ウチの掃除頼まれてくれないかな?」


言いながら、ポケットから鍵を取り出した。
この家の、合い鍵…まさかこんな日に受け取ることになるなんて。


「…でも、私たち別れるんじゃなかった?」


わざとらしく言った私に、冬馬兄ちゃんは苦笑する。


「ごめんね、他に頼める人が居ないんだ。
美和が嫌ならそれでいいんだ」


…ズキンと心が痛む。
「別れないよ」と言って欲しかったのが本音。
だけど冬馬兄ちゃんは、「別れる」を否定しない。


「…しょうがないなぁ。幼なじみのよしみで引き受けてあげる」


だから私は笑い、合い鍵を受け取った。