【美和side】


――……。


私たちと九条さんの話し合いは終わった。
九条さんのご両親が何かしたのかもしれないけど、学校でその件が話されることは無かった。
誰も何も知らずに生活している。その言葉通りだ。

…一方の良明くんは、その傷のせいで色々噂が立ったみたいだけど…本人は相変わらず楽観的で、何も変わらない笑顔で私たちを見た。


「あいつら、捕まったって」


放課後の教室。
そう言った良明くんの顔は、少し安心したような…“何か”から解放されたような、そんな顔だった。


「ねぇ、良明くん。
あの時なんて言ったの?」

「へっ?」

「ほら、公園で」


公園で、私が男たちに連れて行かれた時。
良明くんは私に何かを言っていた。
それを問うと、少し考えた後に言葉を放つ。


「よく覚えてないなぁ。
あの時は傷が結構痛かったし」

「…そっか」


…あの状況じゃ、仕方ないよね。
覚えてないってことは、重要な言葉ではないってことだし。


「あの…助けてくれて、ありがとね」


…良明くんが来てくれたから、私は今生きている。


「ううん、間に合って良かったよ」


そう言った後、少し寂しそうな顔をした。


「九条先輩のことだけど、まだ聞いてないよね?」


…九条さんの、こと?
あの日以来、私は九条さんのことを何も聞いてない。

私の隣で黙っていた麻実ちゃんも、ただ首を傾げた。