【良明side】


――……。


美和ちゃんが、さらわれた。
俺は何も出来ずにそれを見送った。


「…お嬢様の命令、か」


その言葉で確信した。
これは、愛子が仕掛けたもの。
そしてきっと、美和ちゃんは“あそこ”に居る。

冬馬さんに知らせなきゃ。そう思って携帯を開く。


「…冬馬さん?ごめん、落ち着いて聞いてください」

『良明くん?どした?』

「美和ちゃんが捕まった。
多分、愛子のとこに居る」


…冬馬さんは電話の向こうで動揺してるのに、俺はなんでこんなに落ち着いているんだろう?
俺のせいで、美和ちゃんは連れ去られてしまったのに。


『彼女との話し合いは、終わったのに…』

「だけど美和ちゃんが連れて行かれたのは確かだよ。
ごめんなさい、何も出来なくて」

『いや…それより、居場所はわかる…?』


居場所。
愛子は多分、“あそこ”に居る。


「愛子はマンションに一人で住んでるんです。
多分、そこに連れて行かれたと思う」


冬馬さんに住所を教えて電話を切る。
冬馬さんは一人で行くつもり…俺は、どうする?

…愛子が何かやらかすかもって思ってたのに。
なんで俺は止めなかった?
なんで、止められなかった?


外灯に寄りかかって遠くを見つめる。
体中がズキズキと痛むけど、何よりも一番、心が痛む。


(…俺は、何やってんだ)