良明くんはゆっくりと私に近づき、私の手から写真立てを抜き取った。


「ご、ごめんなさい私っ…良明くんのを、勝手にっ…!
ほんっとにごめんなさい!」


…私、最低だ。
良明くんのを勝手に見ようとしてたなんて…嫌われてしまうかもしれない…。

深々と頭を下げる私が聞いたのは、良明くんの笑い声だった。


「いや、別に見ても構わないものだから。
ダメな物だったら見えないとこに隠してるよ」


そう言って差し出す写真には数名の男女が写っていた。


「気の合う集まりと言うか…仲間…かな。
この4人は3年生で、こいつらは同じ2年」

「そう、なんだ…」


私の知らない良明くん。それがそこに居る。


「…私、全然良明くんのこと知らなかったなぁって、今思う」


付き合っていたのに、知らないことがいっぱいある。
それを聞いた良明くんは少し考えた後に言う。


「…俺、自分のことあんまり言わないからね。
聞かれてもはぐらかすし。
結局俺、逃げてるだけなんだ」


少し寂しそうに笑う良明くんは写真立てを静かに伏せ、私を見た。


「自分のことを全部言っちゃうと嫌われそうで怖い。だから言わないんだ。
…あのね、写真に写ってる奴らは俺がどんな人間かなんて興味無い奴らばっかりで、ここに居る俺を“俺”として見てくれる。
だから一緒に居て楽なんだ。俺も奴らをそう見てるし、それ以上を知ろうとも思わない」


一呼吸置いて、良明くんは言葉を続ける。


「…でも、あいつは違う。
最初は同類かと思った。だけど違う。
いちいち俺に突っかかってきて、そのたびに俺の心をぐしゃぐしゃにしていく。
最低最悪な奴。俺の傍から消えてくれっていつも思ってたよ」


…それって、麻実ちゃんのこと…?

そう私が問う前に良明くんは笑い、「麻実だよ」と教えてくれた。