「…ごめん。せっかく来てもらったけれど、少し一人になりたい」

「…大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」


私から離れた美和は微笑みながら言葉を続けた。


「冬馬兄ちゃんが夜に来るの。
その時、どんな顔すればいいかわからなくて」


…戸惑い。やっぱりそれを感じているみたいだ。
美和を一人にするのは少し心配だったけど、その日は帰ることにした。
「大丈夫だよ」と言った美和を信じて…。


帰り際、良明はバイト代を美和に渡そうとした。
だけど美和は受け取らず…封筒に入れられたバイト代が、二人の間を行き来する。

…話し合いの結果、美和はバイト代の3分の1を受け取ることになった。


「ごめんね、私何もしてないのに貰っちゃって…」


最後の最後まで美和は申し訳なさそうな顔をしていた。
良明は「いいんだよ」と笑いながら手を振る。


「じゃあ美和、またね」

「うん」


私も手を振り、美和の家を出た。


………。


「なぁ、明日からやる宿題。
10時くらいからでいい?」

「あ、うん」

「じゃ、図書館に10時な」


そうだ、明日からは宿題をやらなきゃいけない。
…良明と一緒に。


「今年の夏はお前とずっと一緒だな」


微笑みながら言う良明。その顔を見ると上手く言葉が出せなくなる。
胸がドキドキして、苦しくて、張り裂けそう…。


「…宿題見てあげるから、後で何か奢ってね」


なんとか出した言葉。
それを聞いたのに、良明はやっぱり優しい顔で笑ってる。


それを見て思う。
私は、良明が好きなんだ。
いつからかはわからない。だけど多分…好きなんだ。

もっとずっと、良明の笑顔が見たい。